誰しもある経験
プロンテラ中央大通り。
パンダカートを牽くいつもの二人の姿を見つけ、HiWizのユーインとABのクロムは気さくに話しかけた。 「こんちゃー」 「こんに、ちは・・・?」 二人の笑顔が途中でこわばったのは、やはりこわばった苦笑いを返すWSのハロルドと、いつも以上に不機嫌のオーラを吹き上げているクリエのサカキだったからだ。 「こんにちは」 「・・・・・・なんだ」 それは挨拶なのかというツッコミも入れられない。 眉間のしわの深さと目付きの悪さが三割り増しになったサカキを、ハロルドすらもてあましているようだ。 ゴゴゴゴ・・・という効果音が背景に描かれており、彼の周りだけ気温が氷点下になっていそうだ。 「どうしたんだ、サカキさん?」 「あー、実は・・・」 思わず体をのけぞらせかけるユーインに、話すのも火花が散りそうなサカキに代わり、ハロルドが大規模な仕様変更について話した。 曰く、 ADSの計算式が変更された。 バニルのチェンジインストラクションの製薬成功率上昇効果が削除された。 その代わり、フルケミカルチャージのレベルに応じて製薬の成功率が上がる。 サカキはADSを取っているが、ケミカルチャージを取っていないのだ。 そのうえバニルミルトの助力が得られないのはかなり痛い。 「・・・で?まだ新しい計算式の検証結果は出てないんだろ?」 「ちょ、ユーイン!!」 しーっしーっ!とハロルドは指を口の前に立てるが、すでに遅い。 「ほう。ではお前が検証に協力してくれるわけだな?ここに50セットほど用意があるぞ」 倉庫に300セットはあったかな、などと呟くサカキの両手には、火炎瓶と塩酸瓶が握られている。 「た の し み だ な」 「や、ちょ、それは・・・」 「ああああの、サカキさん!ホムンクルスが倒した数がカウントされるようになったみたいですね!」 「クロムさん、討伐クエストなくなりました」 「ええええ!?」 ちゅどーん!! その後、憂さ晴らしに焦げたユーインを壁にして、クロムの支援を独占したサカキが、各地で瓶を投げまくったとか・・・。 「ぐりぃ〜ど〜」 「ハロ、いい加減にSCはずせ!」 「はひぃいっ!すみませんっ!!」 「サカキさん、俺そろそろ青石が・・・」 「お前の足は飾りか?避けろ」 「無茶な!?」 しかしハロルドにはこのあと一ヶ月ほどは、ジェネティックにならなきゃだめかなと、真剣に落ち込んでいるサカキを慰めたり励ましたりする作業が待っているので、この日を境にしばらく買い物を控えたユーインとクロムは、まだましなはずだろう。 END |