不器用な優しさ −5−


 弛緩した柔らかな尻を揉みしだきながら、イーヴァルは自分が出入りしている場所をじっと見下ろしていた。
「はっ、はっ・・・・・・ぁあ!」
「今度は実際に入っているところを見せるか」
「はぁ・・・・・・はぁ?」
 ぐちゅぐちゅと音を立てているイグナーツのアナルは、健気に広がって大きな杭を呑み込んでいる。イグナーツの指などではなく、イーヴァルの硬く太いペニスが、深く浅く出入りしているところを見せたなら、クロムやユーインはどんな反応をするだろうか。そのまま二人にもやらせて、クロムの中がドロドロに犯されているところをイグナーツが見たら、きっと良い反応をしてくれるに違いない。
「ああ、いい考えだ」
「良からぬことを考えて、でかくするな!」
「失敬な」
 イーヴァルは悪い事を考えるとアソコがでかくなる、という持論を持っているイグナーツに理解されなくて、飼い主としては不服の至りだ。
「お前を自慢したいだけだ」
 ピアスをシーツに引っ掛けないよう、慎重に仰向けにさせて脚を広げさせると、より深くまでつながった。
「ァ、ああっ!!」
「あぁ、ここまで入らないと、な」
 しゃらしゃらと鎖が白い肌を這い、小さな宝石たちがわずかな明かりにぬめった輝きを照り返す。まだ力を失ったままのイグナーツの陰茎に並んだ金属が、とろりとした白濁で汚れている。この姿を見られるのは、イーヴァルだけだ。それを他人に見せるのは・・・・・・。
「・・・・・・ふむ。やはり、少しもったいないな」
「な、ん・・・・・・」
「気にするな」
 目的のために誰に何をさせるか、すべてはイーヴァルの手の内だ。もちろん、いま組み敷いている至宝すらも。
「はぁっ・・・・・・はぁ、んっ・・・・・・ぅ」
「そんなに奥が気持ちいいか?」
 イグナーツの最奥はイーヴァルの先端にきゅんきゅんと吸い付き、逞しい竿すらがっちりと咥え込んで離さない。もう少し緩めてもらった方が動きやすいのだが、イグナーツが素直に喜んでいるなら大きな問題ではない。
「イー、ヴァ・・・・・・はぁ、すき・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 蕩けた顔でうわごとのように繰り返すそれに、イーヴァルはいまだに上手く返すことができない。童貞のようにぎこちなく口付けて黙らせると、イグナーツの腕が愛おし気にイーヴァルの肩を抱きしめてきた。
「んぁ・・・・・・は、いぃ・・・・・・んぅっ」
「・・・・・・そろそろ出してやろう。ここに、出されるのが好きだろう?」
「ァアッ!そこ、うごい、ちゃ・・・・・・はぁんっ!あっ!あぁッ!!」
 イーヴァルの肩にしがみついたまま喘ぐイグナーツの腹の中をかき回し、抜き差しするたびに肉付きの良くなった尻に打ち付ける音を響かせる。血管の浮いた杭にざらついた襞が引っかかるたびに、得も言われぬ快感がより滾っていく。
「あっ、あぁっ!イーヴァ・・・・・・イーヴァ、もうだめっ!なかじゅぼじゅぼだめぇっ!イくぅ!でちゃうぅ!」
「いいぞ、イグナーツ・・・・・・一緒に出してやろう」
「ぁひっ!イぐっ!イーヴァもっ・・・・・・なかっ、なかきもちいいっ!おくくるっ!あッ!ァアアッ!!」
 大きく開いた脚の間でイーヴァルを深く埋め込まれ、イグナーツはヒュッと息をつめた。射精している痙攣が内側にも伝わり、奥でたくさん出せとせがんでくる。イーヴァルは宣言通り、抉じ開けた最奥の中に、構ってやれなかった数日分の白濁を注ぎ込んだ。
「ん・・・・・・ぁ、あッ、アッ・・・・・・あぁ」
「ふっ・・・・・・どうだ?」
 半分以上とんだように虚ろな目を覗き込めば、ふわふわと漂う瞳孔がきゅっとイーヴァルに焦点を結び、幸せそうに微笑んだ。
「あぁ、気持ちいい・・・・・・イーヴァがいっぱいはいってくる」
 そういうと、イグナーツはもう一度イーヴァルの肩にまわした腕に力を込めて抱き寄せた。
「んっ・・・・・・」
「まだ足りないか?」
「ううん、そうじゃなくて・・・・・・」
 腰をゆすられて甘い声を漏らしながらも、イグナーツはイーヴァルに向かって艶やかに微笑んだ。
「俺もイーヴァを自慢したい。ん、そうじゃないな。こうやってイーヴァを独占している、俺を自慢したい」
「・・・・・・なるほど。たしかに、世界で一人だけの特権だが、公にできないのが難点だな」
「うん。だから・・・・・・」
 もっとして、と囁きがイーヴァルの耳に染み込んでくる。イーヴァルさえいれば自分は寂しくないのだから、寂しくならないように、たくさん愛してほしい、と。
「痛いのは、ほどほどにな」
「ベッドから出られないようにするのは、許容範囲だな」
「ぜひ、そのくらいやってくれ。ベッドの中でイーヴァのこと考えているから」
 嬉しい減らず口を叩く薄い唇に舌をねじ込めば、あぁと善がってイーヴァルを咥え込んだままの腰が揺れる。引き締まった筋肉がうかがえる滑らかな脇を撫で、腰のくぼみから尻を抱え直す。
「はぁ、イーヴァ・・・・・・」
「着飾って踊るお前を、よく見せろ」
「うん」
 イーヴァルの肩を放したイグナーツの両手が、シーツに泳いできゅっと握りしめた。火照った頬、黒い首輪、勃起した乳首に貫通しているリング、青白い肌の上に散らばる金の鎖と精液・・・・・・そして、いくつものピアスで飾られた男性器と、イーヴァルを呑み込んで離さない、濡れた雌のような穴。
「あっ!あっ、あぁ!はげし・・・・・・ぁひっ、あふれちゃ・・・・・・あぁん!」
 イーヴァルが出したものでさらに潤ったイグナーツの中は、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて踊り狂う。
「いっぱい・・・・・・はぁっ!あぁ!俺の中、気持ちいいッ!イーヴァのでかいのでないと・・・・・・おれ、ぁああ!」
「淫乱な体になったものだ」
「だって・・・・・・ぁあ!しゅきっ・・・・・・そこ、きもちひいぃ!ぃああっ!ああっ!おくも!おくもごりごりくるっ!あぁっ!!」
 溢れ出した精液が泡立つイグナーツのアナルに抜き差ししながら、イーヴァルはうっとりと唇を歪めた。しゃらしゃらと鎖と宝石を揺らして喘ぐイグナーツの陰茎が反り返って、さらなる刺激を求めてイーヴァルを煽る。その連なる飾りのうち、根本近くのひとつを、イーヴァルはぐいと押し込んだ。
「ッッぁあああああ!!!」
 痛みと快感の混ざった悲鳴と白濁を噴き上げて跳ねる身体に、イーヴァルはもう一度自分の精液を注ぎ込んだ。
「っひぃ、ぁ、ああ・・・・・・いっぱい・・・・・・」
「ふぅ・・・・・・ああ、抜くと零れるな」
 ぼこりとイーヴァルの太さに合わせた穴が精液を溢れさせるのを見て、もう一度栓をすることにした。
「ぁああッ!!また、キたぁ・・・・・・っ」
「・・・・・・お前の快楽に蕩けた顔を見るのも、俺だけにしておくとしよう」
 夜明けまでに、あと三日分はやりだめしておこうと、イーヴァルは歯止めの利かない自分に言い訳をした。

 イーヴァルが辟易している御婦人方を全部押し付けられて、さすがのユーインも笑顔が疲れた状態で帰ってきたら、クロムの様子がおかしい。恥ずかしがるクロムにすべて白状させて、自分の知らない所で自慰までしてしまったと知って、ユーインは頭を抱えた。
 イグナーツ単独でこんな悪戯をするはずがないので、ほぼ間違いなくイーヴァルの差し金だ。イグナーツはクロムに指一本触れていないということだったので、なにか言うこともできない。
 恥ずかしがって縮こまるクロムと、自分の元気な下半身を宥めて、とにかく明日になれば帰れるのだと、ユーインは泣きそうな一晩を過ごした。 
「お、はよ〜ござ・・・・・・い、ますぅ〜」
 気もそぞろながら、ゆったりとした朝食の席に姿を現したイグナーツは、ハインツに半ば抱えられるように、えっちらおっちらと歩いてきて、目を丸くしたユーインとクロムの前で、大儀そうに椅子に座った。
「あー・・・・・・」
「お気になさらず、殿下。イーヴァの理不尽は、いつものことです」
 まだ眠そうなイグナーツは疲れた笑顔を浮かべ、もそもそとパンをスープにつけて食べ始めた。
「ん、クロム。イーヴァがね、お土産に最高級のベリョーザ酒をあげるって。今用意してもらっているから、持って帰ってね」
「えっ!あ、ありがとうございます」
 恥ずかしい思いをさせられたが、大好きな酒をもらえるとわかって、クロムの声には明らかに喜色がにじむ。ユーインもクロムの機嫌がよい方がいいので、そこに文句をつけるのはやめておいた。
「陛下の悪ふざけに、腹が立たないわけじゃないんだぞ」
「わかっていますよ。でも、イーヴァはユーイン殿下のことを気に入っていましたよ。良く働く便利な盾だから、ぜひ飼いたいって」
「お断りするッ!・・・・・・頼むから」
 目の前にいるのが、唯一イーヴァルを止められる人間だと思い出して、ユーインの物腰に威勢が無くなっていく。それをイグナーツは、鷹揚にうなずいて受け入れた。
「お任せください。俺さえいれば、イーヴァだってそこそこ大人しいですから。ただ、今度はセックスしているのを見せ合いたいとか言い出したので・・・・・・お気を付けくださいね。俺、昨夜は尻を何度もひっぱたかれましたから」
 あはーっと乾いた笑顔を見せるイグナーツに、ユーインとクロムは揃ってうつむいた。血の気が引くような、赤面するような、なんとも反応の仕様に困る愛され方だ。
「やっぱり、イーヴァル怖い」
「同感です」
 土産のベリョーザ酒を抱えていても、クロムはユーインに同意してくれる。ラズーリト宮を後にオルキディア大使館へ向かう馬車の中で、クロムはふと首を傾げた。
「しかし、なぜ我々を呼んだのでしょうか?わざわざ、こんな悪戯・・・・・・いやがらせをするためですか?イーヴァル帝は楽しいのかもしれませんが・・・・・・」
 結局何がしたかったのだろうかと、要領を掴めない。だが、外交に何ら寄与しない今回の件だからこそ、ユーインにはその目的がはっきりと分かった。
「イグナーツの為だろ。言ってたじゃないか、この時期は忙しくて構ってやれないって」
「あ・・・・・・」
 一日だけでも遠い異国の友人たちと会えたなら、それは無聊を囲うイグナーツの慰めになったことだろう。
「意外と、お優しいところもあるんですね」
「イグナーツ限定で、だろうけど。でも優しさに、性器ピアスや尻叩きがくっついてくるのは、普通じゃないと思うなぁ」
「は、はは・・・・・・」
 性欲魔人のユーインに何度も抱き潰された経験のあるクロムには、ユーインが他人事のように「普通」ということに、微妙に賛同しかねるところがあるようだった。帰ったら、ラズーリト宮で出来なかった分を、しっかりと搾り取られるだろうから・・・・・・。
 ベリョーザの短い春が、ラズーリトの都を暖かな日差しで包んでいた。