【夏の清涼飲料はハロルド】 −微炭酸なキモチ−



この夏の新商品だという清涼飲料のポスター。
それを見上げて、サカキはしばらく動かなかった。

サカキは、もう何度もこのポスターを見ているのだが、
こうして立ち止まってしまうのは贔屓目だろうか。

楽しげな黄色い声に視線を漂わせると、
女の子達がポスターを見上げながら歩き去っていく。

「かわいいよねー」
「あたし見たことあるよ」
「まじでぇ!?」
「露店場所行ってみる〜?」

きゃぁきゃぁと、女の子達は実に楽しそうだ。

「いつもの場所にはいないけどな」

ぼそっと呟いてしまう自分に顔をしかめ、
サカキは毛先が跳ねまくる髪をかき回し、もう一度ポスターを見上げた。

そこには、鍔広の麦藁帽子をかぶって微笑むハロルドがいた。


その仕事をしたのは春先で、夏本番を控えたこの時期では、
本人達は「そんなこともあったな」と思い出す程度なのだが・・・
世間では、そうもいかない、旬の話題らしい。

うっかり出歩いて女性に囲まれるハロルドを何度か見かけたが、
元々社交的で明るいハロルドは、如才なく捌いていた。

サカキは焼きもちこそ焼かないが、若干の不安は、どうしても浮かぶ。

(男同士だから・・・)

ハロルドを囲んだ女性達は、
彼が男のサカキと付き合っているなんて知らないだろう。

それでも、彼女たちと話すハロルドを見て、サカキは思う。

(いつか・・・)

自分に別れを告げて、お似合いの彼女と結婚・・・。

「サーカーキさーん」
「え・・・?」

驚いたようにうろたえるサカキを、ハロルドが不思議そうに見ている。

「な、んだ?」
「・・・大丈夫ですか?具合でも悪いんですか?」
「いや・・・全然・・・」

しかし、ハロルドが手に持った「プレミアムレモン」が目に留まり、
サカキは視線を逸らせて席を立った。

「サカキさん?」
「ん、自分の部屋に帰る」
「はあ。あ、後でいいんですけど・・・」

言いかけたハロルドを振り返ると、頬を染めてもじもじしている。

「なんだ?」
「来月、時間もらえますか?一週間ぐらい」
「一週間?どこかダンジョンにこもるのか」
「いえ、違うんです。その・・・」

顔を真っ赤にしたハロルドが、小さな声で言った。

「実家に・・・来て下さい。紹介したいんで・・・」

言葉を失って、ぽかんとしているサカキを、
ハロルドは上目遣いに一瞬見ただけで、うつむいてしまった。

「あの・・・駄目なら、いいんですけど・・・」
「いや、その・・・」

家族に紹介するなどと言われたのは初めてで、
どう返したものかサカキは戸惑った。

「いいのか?俺なんか連れて行ったら、家族と喧嘩になるんじゃ・・・」

大事な息子、大切な兄弟が、
こともあろうに、いい歳した男と付き合っているなどと知れたら・・・

(反対されるに決まっているだろう・・・)

「大丈夫ですよ〜。みんなサカキさんのこと知っていますから」
「は・・・はあっ!?」

思わずショックエモが出た。

「みんなサカキさんに会いたがっているんです〜」
「え・・・ぁ・・・」

いつの間にそんなことになっていたのかとか、
やたらと柔軟なのは血筋なのかとか、

ツッコミどころは色々あったが、サカキはとりあえず頷いた。

「い、いいけど・・・」
「ホント!?」

ぱぁっと明るい笑顔になったハロルドは、
爽やかな清涼飲料のCMに起用されるにはぴったりだ。

「ありがと、サカキさん!」

きゅうっと抱きつかれて、その口元から、ふわりとレモンの香りが漂う。

触れた唇も舌も、爽やかな香りと、甘い味がして・・・

「ん・・・ふ、ぅ・・・」
「は・・・ぁ・・・。サカキさぁ〜ん、俺、嬉しい!」
「そ、そうか・・・」

すりすりすりすり・・・

ハロルドは幸せそうに、サカキに頬擦りしている。
尻尾があったら、千切れそうなぐらい振っているに違いない。

「あ・・・」
「・・・元気な奴だな」
「うぅっ、すぐおさまりますっ!大丈夫で・・・わあっ!」

壁に押し付けて、差し出した唇を吸わせている間に、
ベルトとファスナーを外して解放してやる。

「サカキさ・・・」
「俺も喉が渇いた」
「あ・・・や、ぁう・・・っ」

一緒に里帰りする約束を取り付けただけで盛るなど、
どこまで感情と欲情が直結しているのだ。

(そういうところも可愛いんだが)

元気に反り返ったハロルドの太い茎を頬張り、サカキは丹念に舐め上げた。

「ちゅ・・・ん・・・ふ・・・」
「ぁ・・・あっ・・・サカキさん・・・や、ぁっ・・・も・・・」

とろとろと溢れ出す苦味を味わいながら、サカキは苦笑する。
サカキの髪の間に、ハロルドの指が入ってきた。

「はぁっ・・・あっ!・・・だめぇ・・・っぅ!」
「んっ・・・ぐっ・・・」

喉の方に擦り付けられていた先端から、勢いよく迸る精液を、
サカキは喉を鳴らして、うっとりと飲み干した。

「はっ・・・ん、美味かった。あと最近早いぞ」
「はや・・・!?そ、そんなこ・・・」
「炭酸飲みすぎるなよ」

炭酸と耐性の因果関係を必死で探ろうとしているハロルドを尻目に、
サカキは内心で自分を嘲笑した。

(誰に彼女ができて結婚するって・・・?)

ハロルドの笑顔は、不特定多数用のものではない。
サカキにだけ向けられてしかるべきものだ。

CMのモデルなど、安売りするようなことを許してしまい、
ずいぶん勿体無いことをしたと、少しだけ後悔した。

(まぁ、よく撮れていたから、いいか)

どうせ来月には、サカキがハロルドを独り占めする事が、
ハロルドの両親公認になるのだから。