相棒


 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ。
 いつも多くの人で賑わい、同時に、あまたの事件もおこっている。

 体を引きずるようにして、やっと自分のアパートの部屋にたどり着く。重いカートを置いて、盾やら剣やらを外し、埃っぽく汚れたケープを脱ぐ。
「うう・・・疲れたぁ」
 ベッドに行く、ほんの少しの距離さえ遠い。エリゼンタはよろよろとカウンターテーブルに突っ伏した。床に座っては、そのまま寝てしまいそうだ。
「・・・」
 立ったままでも寝そうである。
 ぐったりしているエリゼンタを、若草色の長い髪をたらしたリーフが覗き込んでくる。
「メグ、今日もお疲れ様」
 いつも一緒にいるホムンクルスに、にこっと微笑まれて、エリゼンタの疲れた顔にも、小さな笑みがこぼれる。しかし、次の瞬間には、きゅっと眉が寄る。
「うー・・・汗臭い。お風呂入らなきゃ」
 カウンターテーブルから引き剥がす体が、砂の詰まった袋になったように重だるい。
 紺色の長い手袋と、アルケミストの制服であるベアショルダーのワンピースを脱ぐ。腕や胸元、それに太ももに日焼けした痕が見え、エリゼンタは眉をひそめた。もっと強力な日焼け止めを開発した方がいいかもしれない。
 ぬるめの湯を張ったバスタブに浸かり、石鹸の泡を立てながら、ぱんぱんになった足を揉む。
「・・・・・・」
 そもそも、アルケミストとは戦いに慣れ親しむ職ではない。完全に製薬の道を度外視した修練内容でも、なかなか経験を積みにくいことも、臨時PTに入りづらいことも、エリゼンタはわかっていた。一人でがんばるのにやぶさかではない。でも・・・正直、限界を感じ始めていた。
 本格的に製薬やホムンクルスの研究に携われるほど、エリゼンタは秀才でも器用でもない。それでも、人間のパートナーとして、大きな役割を果たすことを期待されているホムンクルスと生活をともにして、そのレポートをアルケミストギルドに提出することは続けている。
 自分でホムンクルスを生み出すことさえ出来ず、製薬クリエイターとして中堅ながら名の知れたサカキからエンブリオを買い受けることが出来たのは、かなりの幸運だった。
「あ・・・」
 そういえば、昨日そのサカキに偶然再会して、栄養剤のような物を貰った。ホムンクルスに飲ませてみて欲しいと言われたが・・・。
(いっけない。まだやってなかった)
 期限は特に言われていないが、報告だけ欲しいと、一緒にいたハイプリーストに言われていた。
 エリゼンタは急いで一日分の汚れを泡と一緒に洗い流して、タオルドレスに頭を突っ込んだ。
「メグー。お風呂場入ってきていいよー」
 ひょこっと頭を出すと、メグはふわふわと入ってきて、まるで葉菜の外側を剥ぐようにワンピースを脱いだ。脱いだワンピースは塵になって消えてしまうが、新しい服がすぐに生える・・・
 熱い湯は苦手なので、ほとんど水浴びだが、人間を真似てぱしゃぱしゃと水をかぶる。休む時にはエンブリオに戻ってしまうのであまり意味はないが、きちんと埃を払うのは気持ちがいいらしい。
 長い髪がしっとりと艶を取り戻し、メグは上機嫌でエリゼンタからタオルを受けとった。
「メグは綺麗だねぇ」
 メグはこてっと首を傾げるが、エリゼンタに頭を撫でられて、褒められたらしいと理解して笑顔になる。
 うっすらと葉脈の見える生白い肌に、しなやかな肢体、夢見るような大きな瞳は、本当に星でも入っているのではないかと思えるほどだ。エリゼンタは密かに、自分のホムンクルスがとても美しいと自慢に思っていた。
「はい、メグ。これ飲んで〜」
 メグに渡された試験管は、彼女がいつも主人を癒す時に使う赤スリムポーションに似ている。
「?」
「ちがうちがう。それは、メグが飲むの」
 一生懸命に癒しの手をかけようとするメグに、エリゼンタは「飲む」しぐさをして見せた。
 メグはしばらく試験管とエリゼンタを見比べ、ぐいっと淡い赤色の液体を飲み干した。
「おっけー!・・・っと、これ休む前に飲んでよかったのかしら?戦闘前に飲むものじゃないよね?」
 特に指示が無かったので、何も考えずに飲ませたが、栄養剤というぐらいだから、たぶん疲労回復に効くのだろうと思い直し、エリゼンタはレポート用紙を取り出した。一応臨床試験だといっていたから、なにか特別な兆候が出ていたら、すぐに書き留めなくては・・・。
 筆記用具を用意しておいて、エリゼンタはリンゴジュースを飲もうと振り向いた。
「メグ?」
 バスタオルを持ったまま、頬を上気させたメグが、ぼんやりと立っていた。
「メグ、大丈夫?」
 熱でもあるのかと額に手を当ててみるが、そうではないようだ。
 ふわふわと浮いているために、頭ひとつ分ほど高い位置にあったメグの顔が、ふいに近付いた。
(え・・・?)
 長い髪が肩を抱くように巻きつき、バスタオルを放した白魚のような手が、エリゼンタの頬を包む。あどけなく額を出した、可愛らしい顔は目を瞑って、花びらのような唇は、柔らかかった・・・。
(ええええええええー!!!!?)
 ボブカットにした赤い髪が、全部立ち上がってしまうのではないかと思った。真っ赤になった顔と同じで、エリゼンタの頭の中もノーグロードぐらいの熱さにはなっているかもしれない。
 エリゼンタは女の子同士で頬にキスをするのは見た事があるが、自分がホムンクルスに唇を奪われるとは思ってもみなかった。
 とりあえず押しのけるなりすればよさそうなものだが、完全に固まった彼女は、メグに運ばれるように、ベッドに転がった。
「メ・・・グ!?」
 今度は視界に入った物に、エリゼンタのアーモンド形の大きな緑色の目が、開いたままになった。
(ナニそれぇえええええー!!!?)
 裸のメグの股間に、ないはずの物が生えていた。エリゼンタは何度もメグの裸を見ていたが、ソレがある様子など、ついぞ見た事がない。・・・たいへん立派なおしべ、とでも言うべきか。
(おっ、お○◆×◎・・・!!!た、起ってる!起ってるッ!!)
 ばっきばきに膨らんで反り返って、この歳になっても経験のないエリゼンタには、まさに脅威のシロモノである。
「メ、メグ・・・?」
 恐ろしくなって見上げれば、いつもよりいっそう美しいメグの笑顔があった。それは、優しそうな、愛しそうな・・・幸せそうな・・・。
「メグ・・・」
 長い緑色の髪が空気をはらんで膨らみ、ひらひらと舞う葉が翼のように広がる。
「エリゼ・・・ダイスキ・・・」
 硝子細工のように繊細な高音が、キラキラとした言の葉になって、エリゼンタに舞い落ちてきた。
「メ・・・んっ」
 二度目のキスは、ぴちゃっと唇を舐められて、驚いて開いた隙間から舌が入ってきた。舌の裏や上顎を舐められて、二人分の唾液がエリゼンタの口の端から溢れた。
(やだ・・・気持ちいい・・・)
 ぞくぞくと這い上がってくるような快感に大きく喘ぐと、タオルドレスを捲られ、引き抜かれるままに全身があらわになっていく。
 恥ずかしい、と思う前に、やんわりと胸を揉まれて、身体の奥が熱くなった。耳元に感じる息遣いや、首筋を伝っていく舌の感触が、たまらなく愛しい。
「メグ・・・メグは、わたしのこと好きでいてくれたの?」
 自然界に属さない、人工生命体。そのホムンクルスが、創造主である人間をどう思っているのか・・・。
「スキ・・・エリゼ、スキ・・・」
 熱に浮かされたように潤んだ瞳が、頬を染めて、いくつもキスを降らせながら訴えてくる。
「メグ・・・ありがと・・・。わたしもメグが好きだよ」
 驚いたが、肌を合わせるぐらいかまわないと思えるほどには。純粋に、嬉しかった。
 キスをして、抱きしめあって、身体中の気持ちのいいところを撫で回して・・・メグのおしべが下腹に当たって、エリゼンタは苦笑した。
「初めてだから、上手じゃないけど・・・」
 それでも、どうするかぐらいは知っている。エリゼンタはどきどきしながら、それをそっと手で扱いて、口をつけた。
「ッ・・・はぁ、ン・・・!」
 上質なグラスをはじいたような喘ぎ声に、エリゼンタは嬉しくなって、思い切って咥え込んだ。括れ、その裏側に舌を添え、歯を立てないように、唇を滑らすと、飲みきれない唾液が溢れた。
「んっ・・・くちゅ・・・はっ・・・んっ・・・」
「アッ・・・はっ・・・はぁ・・・っ、エリ、ゼ・・・ぇ」
 ひくひくと震える内腿を撫で、申し訳程度に膨らんだ場所から、その奥の濡れた割れ目に指を滑り込ませた。
「ひァ、アアアッ!!」
 どぴゅうと口の中に溢れた物に驚いて、エリゼンタは口を離し、吐き出した。
「けほっ・・・んん?そんなに、苦くない・・・」
 話に聞く人間の精液よりは、青臭くも苦くもないようだ。色も、透明に近い。・・・生のアロエの葉を、すりつぶしたような感じだろうか。
 これなら飲めそうかなぁと、手の中で少ししぼんだモノを見ながらエリゼンタが考えていると、肩を軽く押された。
「あ、ごめんね」
 恥ずかしそうに、少しむくれたメグが、エリゼンタを見おろしていた。
「え・・・っと、わたしは・・・」
 しなくていいと言う前に、ぎゅっと抱きつかれて、そのまま、また組み敷かれてしまった。
「エリゼ、・・・ッ」
「はい・・・お願いしマス・・・」
 ぷくうと膨らんでいたメグの頬が、にこっと笑顔になった。可愛いと思うのは飼い主の欲目じゃない、とエリゼンタは思う。
 おずおずと開いた脚を、細くて白い手が撫でていく。指先に割れ目を触られて、すっかり濡れているのにエリゼンタは驚いた。
「や・・・は、んっ・・・」
 すんなり入ったメグの指に広げられ、小さな水音が恥ずかしい。勃起したクリトリスに愛液を擦り付けられて、電流でも走ったかのようにエリゼンタは震えた。
「ひ、ぁ・・・っん、メグ、も・・・」
 メグのおしべに手を伸ばしてみると、もう復活していて、先端から蜜をこぼしている。
「メグ・・・」
「ッ・・・エリゼ・・・」
 ちゅぷ・・・と大きな先端が入り、エリゼンタは縮み上がろうとする体の力を抜くよう、そっと息を吐いた。
 少しずつ入ってくる質量に、若干の苦しさはあるが、怖れていたような痛みはなかった。
「・・・」
「大丈夫。動いて」
 様子を見るように止まったメグにそう言ったが、メグはそれ以上動かず、エリゼンタの手を撫でた。エリゼンタの両手は、メグの二の腕をしっかりとつかんだまま、震えていた。
「・・・エリゼ・・・」
 メグはエリゼンタの胸に顔を埋め、張り詰めてしまった首筋や肩を、ゆっくり撫でていった。
「メグ・・・」
 本当に、エリゼンタの事を大切に思っているのだろう。そんな仕草に、エリゼンタの胸が熱くなる。
「メグ」
 ぴんと尖ったメグの耳を撫でると、びっくりしたように見上げてきた。そこが弱いらしく、困ったように目尻が下がっている。
 メグを抱き寄せ、口付けをしながら、エリゼンタはメグの耳に触れた。
「ァ・・・」
「ぁんっ」
 メグが身体を震わせた拍子に、エリゼンタの奥にメグが入り込んだ。緩やかな律動に合わせて、もっと抱きしめられるように脚を開くと、擦れて、意外と・・・気持ちがいい。
「はぁ・・・ん、メグ・・・すごい・・・」
「はっはぁっ・・・エリゼ・・・ッ、エリゼ・・・!」
 自分を呼ぶメグの声が、濡れたように耳に心地よく、エリゼンタは自分の奥がきゅんと締まるのを感じた。
「―ッ」
「ぁ・・・メグの・・・おっきいぃ・・・っ」
「・・・メンタルチェンジ!!」
「え・・・ぁひぃんっ!ひぁっ・・・あっ!あっ・・・らめっおくっ!おくぅっ!」
 こつんこつんと当たるところが気持ちよくて、少しひりつく中も、ちゅぱんちゅぱんという恥ずかしい音も気にならない。
「もっとぉ・・・めぐ、もっとぉっ!あんっ!あぁっ!すき・・・めぐ、すきぃ・・・ひぃいいいんっ!!」
「はぁ・・・ッ!はっ・・・エリゼ・・・んんッ!!」
「ア・・・ぁああアッ!!!」
 身体の奥で、とくんと動いた感触に、エリゼンタの体の中を白い衝撃が突き抜けていく。全身が、歓喜するように震えた。
(イっ・・・ちゃった・・・ぁ・・・きもちいい・・・)
 まだ胎の中でびくんびくんと震えているメグを感じながら、エリゼンタは呆けたように、柔らかいメグの体を抱きしめた。
「メグ・・・大好きだよ・・・」
 それが錬金術師とホムンクルスという種族や立場でも、ただ大切で、愛しいことには変わりない。
「・・・メグ?」
「ふきゅぅう〜」
「へ・・・?」
 ぐったりと動かなくなったメグを慌てて抱き起こして、エリゼンタは呆然となった。するりと抜けたメグのおしべが、跡形も無く消えていくところだった。
「もしかして、メンタルチェンジの時間切れ・・・え?でもまだ、親密度が・・・あ?あれぇ??」
 疑問はたくさんあったが、とりあえず身体を綺麗にして、体力だけ回復させたメグをエンブリオに戻してから、エリゼンタははっと気がついた。
「これ、どうやって説明すればいいのかしら・・・」
 錬金術師エリゼンタは、生命倫理に匹敵する大難題に、しばし頭を抱えることになった。

 後日、エリゼンタは処女喪失と引き換えに、それまで「普通」だったホムンクルスとの親密度が、いきなり「きわめて親しい」になり、ついでに奥義まで覚えたことを報告した。そして、渡されたのが性戯用プラントの人間に対する接触パターンを、より柔らかく、より複雑化させるための、「植物用惚れ薬」だったと聞かされた。
 元々メグは、エリゼンタに対して良好な感情を持っていたようで、色々な意味で最後の一押しになってしまったようだ。
 さすがに「おしべ」が生えるとは思っていなかったらしいサカキが平謝りする隣で、サンダルフォンが必死で笑いを堪えていたが、それを見て、それまで恥かしがっていたエリゼンタも笑った。とにかく、結果オーライだったのだから。
「メグ、行くよ〜」
「♪〜」
 エリゼンタとメグは、相変わらず仲のよいコンビを組んで、あちこちの狩場を探索するのだった。