『戦災孤児』


 これでも一応、分別あるほうだと自負している。
 いや、単に想いを寄せる者に影響されただけなのかもしれないが・・・。
 清冽な夜明けのもと、まだ火のくすぶる村に降り立ち、ライドウは溜息をついた。
 ここに野良人間族の集落があるのはわかっていたので、かなり離れたところで戦端を開いたはずだった。そして、指揮官たる自分が思い描いたとおりに、戦況は推移し、収束したはずだった。
 人間は家畜と大差ない生物だが、ある程度自立思考が出来るし、手先も器用だ。しかし大変ひ弱で、養殖しても、なかなか管理して育てるのが大変なのだ。野生の人間は数が少ないが、養殖よりは多少頑丈に出来ているので、かなり貴重な資源なのだが・・・。
「派手にやってくれたなぁ・・・」
 この集落を焼き払ったのは、ライドウの軍ではない。忌々しい、戦闘狂の天使族だ。奴らには硬直した理念しかないので、現実問題を上手く組み入れることがほとんどないのだ。
 石や木で建てられた粗末な家々が、無残に破壊されている。そして、人間の残骸が、あちらに一体、こちらに二体と、転がっている。
「生きている奴はいるかー?」
 もしもまだ生きている人間がいたら、ラッキーだ。昔の言葉で、これを火事場泥棒と言うらしいが、まぁ、なんにせよ、貴重な資源は、先に拾った者勝ちだ。
「おー・・・いっ!?」
 不意に降り注いできたレーザーから飛びのいたが、翼の先端と衣服の裾が少し焦げた。まだ天使族が近くにいたらしい。次々と撃ち込まれる熱線をかわしながら、ライドウは瓦礫を踏み台に天空へと飛翔した。
 敵は三人。勝負は一瞬についた。ライドウが自在に操る金属片に切り刻まれ、白羽根を撒き散らしながら、無様に落下していく。
「雑魚だな」
 ライドウは地上に舞い降りかけたが、墜落したはずの天使族から、再び殺傷レーザーが放たれた。ホバリングしていた皮膜が裂け、運悪く骨が焼けた。翼だけで浮いているわけではないが、大きくバランスを崩した。
 急速に迫る地上へ軟着陸を試みるも、狂ったように撃たれては避けるので精一杯だ。
「やべぇ・・・」
 この程度で死ぬとは思わないが、負傷した状態で援軍にこられたら、一人では荷が重い。ライドウが冷や汗をかいたところで、ふと攻撃が止まった。武器がエネルギー切れでもおこしたかと思ったが、そうではなかった。
 地上に降り立つと、天使族の死体のそばに、小さな人間族が立っていた。おそらくライドウに発砲していたのであろう天使族の顔面には建材の石がめり込み、じわりと地面に体液をしみこませている。
「・・・お前がやったのか?」
 まだ生きている野生の人間を見つけられたことに、ライドウは内心歓喜したが、小さな人間は、くるりときびすを返して歩き出した。
「おい、待てよ」
 瀕死とはいえ、天使族にとどめをさせるとは、なかなか見所のある人間だ。しかも、サイズから言って、まだ親の庇護を必要とする子供だ。
 ライドウが人間の子供を追いかけていくと、立ち止まった人間は物陰に身をかがめ、なにかを引きずり出した。
 それは、小さな人間よりも、もっと小さな人間の死体だった。明らかに、天使族のレーザーに切り裂かれている。
 ライドウは、子供が何をしているか、初めはわからなかった。言葉が意味を成していなかったせいもあるし、はじめて見た行為だったからかでもある。
 ひとしきり叫んだりしたあと、小さな人間は、まだそこに突っ立っていたライドウに、目や鼻から零した水でぐしゃぐしゃになった顔を向けた。
「泣いているのか」
「もう、泣いてない」
 日に焼けた、むき出しの腕で顔をぬぐうと、小さな人間は改めて魔族を見上げた。
「誰?」
「ライドウってモンだ。お前に名前はあるか?」
「カイン」
「よし。カイン、今日から俺のものだ。飼って面倒見てやる」
「・・・白い羽の所でなければいい」
「おお、大丈夫だとも」
 ライドウの逞しい腕に抱き抱えられると、すっぽりと収まって しまうほど、カインは小さかった。しかし、同族の敵を討った胆 力は、幼い無謀では片付けられないものがある。
 すでに癒えた翼を羽ばたかせ、小さな野性の人間を手に入れた ライドウは、消滅した集落を後にし、荒野へと飛び去った。



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