双機銃を腰の後ろに装備した細身の男をゲートエリアの奥に見つけ、リサは思わず弾んだ声を出した。
「あらあらまあまあ、お久しぶりですねえ。そうですねえ」
「あ、リサちゃん先輩だ。こんにちは」
　クラスカウンターから立ち去りかけたニューマンの男は、相手がリサだとわかると、ぱっと破顔して親し気に微笑んだ。しかしその貌は、淡い青銀色の長い前髪とサイバーグラスに遮られ、ほとんど鼻から下しか表情が読めない。
　リサは彼がアークスになったばかりの頃を知っていたが、いまとはだいぶ違って、表情もやや乏しく、身体は枯れた小枝のようだったと記憶している。すでに二十歳を越えたはずだが、いまの彼の方が、昔よりも無邪気で幼げな笑顔をしている。
「はい、こんにちわぁ。死にそうもないくらいお元気そうですねえ」
「うん。リサちゃん先輩もお元気そうですね」
「リサはいつでも元気ですよぉ。イグナーツが死にそうになっていないということは、噂の良いご趣味の恋人と、上手くやっているんですねえ。残念です」
「ちょ、最後を真顔で言わないで。どういう意味なんですか」
「そのままの意味ですよぉ。うふっ、うふふふふ」
　これでもリサは、どういうわけかサディストの彼氏と上手く付き合っているらしいイグナーツを祝福しているつもりだ。からかい甲斐のないほど貧相で面白くないよりも、適度に幸せ太りしている方が、いたぶって楽しいではないか。
「残念ですねえ。あっさりと死ねなくなってしまいましたねえ」
「･･････そうだね」
「ああ、悲しい事です。たくさんいたぶられて苦しんで苦しんで殺されてさらに殺されても、死にたくても死ねなくなってしまったなんて。まあ、それも悪くないです」
「うんっ、そうだね！」
「頭の中までは変わっていないようで、リサは安心しました」
「そう？自分では結構変わったつもりなんだけど」
　イグナーツはリサが見上げる先で首を傾げるが、その「背負った荷物の凶悪さのわりに、生きることに対する諦めがいい」ところが、昔からちっとも変っていないとリサは思うのだ。
「ところで、どうしたんですかぁ、その装備は？」
　リサの記憶では、イグナーツはレンジャーの資格は持っていたが、長くハンターだったはずだ。いま彼が持っているのは、最新式で最高級とは言わないが、彼のレベルに見合った品と言える双機銃だ。
「ああ、またクラスレベルの上限が解放されたから･･････」
「そういえば、貴方は後天的第三世代でしたね。ガンナーになっているということは、レンジャーにもなる予定が？」
「もちろん」
　イグナーツは胸を張って、薄い唇をにっと横に広げて笑う。
「いつリサちゃん先輩のお供を仰せつかっても、足手まといにならないように頑張るよ」
「それは良い心がけです。リサも負けていられません。撃って撃って撃って苦しめて苦しめて殺して殺しましょうねえ」
「うんっ」
「ではではでは、良い刺激をもらったリサは、気分が良いので去りますよお。ごきげんよう、ごきげんよう」
「ごきげんよー！」
　赤いグローブに包まれた手をぶんぶん振るイグナーツに手を振り返し、リサはこころもち浮かれた足取りでロビーを歩いていくのだった。