贅沢の極み −2−


 昂はボトムを脱いで下半身を露出させた明智を獅童の前に立たせると、獅童のボールギャグを外した。ぐいぐいと両手でしならせた鞭を獅童の首にかけ、ちょうどよい高さまで引き上げさせる。
「うぐっ・・・・・・くっ、はっ、はぁっ・・・・・・」
「まだだ。まだ、待て」
 明智が見下ろしている先では、昂に揉まれて起ち上がった自分自身と、そこに物欲しげな荒い息をかける、マスクで頭部を覆った男の唾液まみれの口があった。そのさらに下には、逞しい胸と拘束されたままの両手、そして自分を作りだした忌まわしい巨魁が、自身で吐き出した精液に濡れて勃起している。
 獅童を挟んで立つ二人が視線だけで同意を確認すると、明智が自分からもう少し近付く。いきり立った竿に高い鼻の先がかすめ、生暖かい息が柔らかな内腿に当たる。そのまま、明智はマスクに覆われた獅童の頭に股間をこすりつけ、裏筋や睾丸に擦れるレザーの感触にふるりと身を震わせた。
「んっ・・・・・・」
「フーッ、フゥーッ・・・・・・!」
「まだだよ、センセイ?いい匂いがする?そうだよな。明智のちんこもキンタマも、いい匂いがして舐めたいよな?お前と違って若いし、たくさん出してくれるザーメン青臭くて美味しいよねぇ?お前の息子のザーメンだよ?早くしゃぶって飲みたい?本当に変態だな」
「はぁーっ、はぁーっ、ぁあーっあっ、はぁー・・・・・・」
 昂の鞭で首を拘束されたまま、明智の陰部をマスク越しとはいえ顔面にこすりつけられ、獅童は必死で舌を伸ばす。若い雄の匂いがする。目の上に、鼻の横に、すぐそこに、柔らかな雄の果実があるのだ。
「ふっ、ん・・・・・・」
「明智も入れたい?」
 大嫌いな男が虐げられているのを見るのは気分がいいが、その大嫌いかつ実の父親を性処理道具に使うなど、生理的嫌悪感が先にたちそうなものなのに、明智は頬を染めて、この常軌を逸した快楽に身を投げた。
「昂に、見ていてもらいたい。俺が、この男を犯すのを」
「いいよ、吾郎。最高だ」
 昂は目を細めてにんまりと唇を吊り上げ、獅童の首にかけていた鞭を引き戻して広い背に力いっぱい叩きつけた。
「よし!」
「アアァッ!!はっ、んじゅっ!・・・・・・んぼっ、ぉご・・・・・・んっ!んぶっ!」
「っぁあ!はっ・・・・・・んっ!」
 まるで飢えた獣のように明智の股間にむしゃぶりつく獅童に、昂はケラケラと嗤いながら、まだアナルビーズの端をぶらぶらさせている尻を、鞭の先でペシペシと叩いてやった。
「ハハッ、いいぞ、獅童センセイ。明智が気持ちよさそうだ」
「んふっ!んっ、んご・・・・・・ッ!ぉうっ!」
「はぁ・・・・・・っ、あぁ、あっ!」
 最初の勢いに押されて半歩下がった明智だったが、レザーマスクをしっかりと両手でつかみ、温かな粘膜の中に自分の性器を突っ込んで腰を振った。大きな口腔は喉の奥まで明智を呑み込み、動かすたびに根元までぬるぬると厚い唇が吸い付いてくる。唾液にまみれた舌に擦られ、吸い込まれそうな喉奥に突き込むたびに、これはただの生きたオナホールだと自分に言い聞かせる。
 これが父親だなどと、傲慢な権力者の面影もなく、友人に鞭打たれて喜び、実の息子の性器を美味そうにしゃぶっているのが父親などと・・・・・・。
「ごろー?」
 甘えた声にはっと目を開けると、赤い革手袋の指先に顎を捉えられ、大きな目を伏せた中性的な美貌に、ふっくらとした唇を押し付けられた。
「ん・・・・・・んふ・・・・・・ぁ」
 ぴちゃぴちゃと猫のように舐めてくる舌に応えて口を開くと、遠慮なく入り込んできて明智の口の中を舐めまわした。下の歯列も上顎も、唾液が溢れるほど舌を絡ませ、昂との蕩けるようなキスが股間からの快感を柔らかく昇らせていく。
「はっ・・・・・・あぁっ、あぁっ・・・・・・!」
「ごろー可愛い・・・・・・獅童にフェラされて気持ちいい?」
「ぁ・・・・・・きもち、いい。はっ、ぁ!昂・・・・・・も、っと・・・・・・」
「んっ・・・・・・」
 差し出した舌を昂の唇が食み、絡みついてきた舌にじゅるっと吸われた瞬間、明智は獅童の口の中に放っていた。ラバーマスクに包まれた頭をがっちりと掴み、温か濡れた狭い喉の奥へと、数日分の精液を流し込んだ。
「ん、ァ・・・・・・ァッ!はぁっ、はぁ・・・・・・」
「ごろーはパパが大好きだな。俺とキスしているのに、パパばっかり掴んじゃって・・・・・・」
「っ、ちが・・・・・・!」
 明智が慌てて獅童の頭を離すと、大きな体はがくりと床にうずくまって痙攣したが、荒くても息はちゃんとしている。
「あぁあ。獅童先生、明智の精液飲んでイっちゃった」
 昂の指摘で床を覗き込めば、たしかに赤黒く勃起した陰茎が、白濁した体液を床に撒き散らしていた。
「ひっ」
「怖がんなくていいよ。ごろーは俺のものだから、あんなの全然怖くない」
 きゅっと抱きしめてくれるのは、編み上げコルセット風のボンテージを着た青年で、深紅の革手袋は明智の背を撫で、むき出しの尻と萎えたペニスをもさする。
「あ・・・・・・」
「よくできました。明智は俺の言うことちゃんと聞けるイイコ。だから、もうひとつ頑張ったら・・・・・・ここに入れてあげてもいいよ」
 するりと双丘に滑り込んできた指先につつかれ、明智は期待に頬を熱くした。
「なにを・・・・・・すればいい?」
「ふふっ」
 頑張って結果を出せば褒めてくれる、自分を必要としてくれる、咎められない“正しい”道を示してくれる、なにより、ずっとそばで愛してくれる・・・・・・。
「そこで転がっている変態を犯して。アナルビーズを引っこ抜いて、代わりにお前のを突っ込んでやるんだ」
 まっすぐに伸ばされた赤い指先のその先に、頭と手首を拘束され、縄で体を締め付けた男が転がっている。
「ぃ・・・・・・いや・・・・・・」
「出来ない?」
「ちが・・・・・・!」
 明智は首を振り、昂に抱き着いた。やりたくはないが、出来ないわけではない。ただ・・・・・・。
「見たくない。あれを見ながらじゃ・・・・・・起たない」
「ん、わかった」
 昂は二つ返事で了承すると、部屋の隅から引っ張ってきた鎖に、獅童の両手の拘束具を結び付け、ついでとばかりに獅童の両膝も広がるように鎖と拘束具で繋いでしまった。
「縄があると入れにくいよね?切っちゃおう」
 小型ナイフでぶちぶちと縄を切り、落ちていた布切れを獅童の口に突っ込む。どうせ元々は獅童の股間を覆っていた物だ。
 昂に目隠しをされた明智は、導かれて膝をつき、手を伸ばしてなにかのリングが指にかかるのを感じた。
「それを、引き抜く。四本」
「よっつ・・・・・・?」
 明智は手探りでリングを四つ見つけると、まとめて力いっぱい手前に引っ張った。
「ふがああああ ッ!!」
「ひ!?」
「アハハハハッ!ごろー最高!ああ、可愛いなぁ」
 大笑いしている昂に抱き付かれながら、明智はずるんと抜けた物を手に途方にくれた。見えないので、どうすればいいのかわからない。
「それは捨てとけばいいよ。あぁ、面白かった。じゃあ、ごろーも気持ちよくなろうな」
「あんっ・・・・・・」
 革手袋に包まれた昂の指先が、明智のシャツをまくり上げて乳首をつまみ、ペニスを扱いた。
「はっ・・・・・・あっ!」
「ごろーは元気だな。すぐに硬くなった」
「だって、君が・・・・・・んぁ・・・・・・あぁっ!」
 視界を塞がれているせいか、子供のように頼りない明智の背を、昂がそっと押し進めた。先端が柔らかな肉襞に包まれるとびくりと背が震え、そのまま素直に腰を振りだす。
「あっ・・・・・・あぁっ!」
「気持ちいい?」
「ウッ、フゥゥ・・・・・・!」
「はっ、はっ・・・・・・あぁっ、きもち、いい・・・・・・ッ、とけちゃうっ」
 快感に任せて肉塊にのしかかっていく明智の尻を、赤い革手袋が撫でて開いていく。解され慣れたアナルにつぷりと指を入れ、中にあった小さなローターを引っ張り出した。
「あぁぁッ!!」
「ほんとそっくりな親子・・・・・・。じゃあ、入れてあげるからね」
 ずぶずぶと自分の中に入ってくる熱い感触に、明智は長い喘ぎ声をあげた。自分の中をいっぱいに満たして、優しく愛してくれる温もりは、いま明智の背後にいる者だけだ。
「はあぁっ、あぁっ!あぁッ!だめ・・・・・・っ、そこ、ぁああっ!」
「ん、ごろーのなか、気持ちいい」
「ひっ、ぁ!そんな・・・・・・ごりごりしちゃっ・・・・・・あぁッ!あッ!」
 後ろから突かれるたびに、自分のいきり立ったペニスもドロドロの肉壁にきゅうきゅうと包まれて、明智は自分の下にある肉塊にしがみついて夢中で腰を振った。もっと、もっと気持ちよくなりたい。
「イイッ、イく・・・・・・!こぉ、イッちゃう・・・・・・!」
「うん、いいよ、ごろー・・・・・・はぁっ、俺もごろーのなかに出しちゃいそう」
「い、いっ!俺のなか、なか、だし・・・・・・してッ!」
 ぱんぱんと打ち付けられる肉の音に混じって、明智の耳元でシュルシュルと衣擦れがして、視界が急に開けた。
「あ・・・・・・」
「んッ」
 どくんどくん、と腹の奥に精液が満たされる歓喜に、明智は自分の父親の中に吐き出しながら笑みを刻んだ。

 時間通りに現れた迎えの車に乗り込んだ獅童を見て、運転手はぎょっと目を見張った。
「おはようござ・・・・・・先生、大丈夫ですか?」
 獅童の額から頭頂にかけて、小さな傷か痣のような赤味が散っていた。同乗している秘書の明智は知っていることなのか、特に反応を示さずにラップトップパソコンを引っ張り出してメールのチェックを始めている。獅童はややばつが悪そうに自分のスキンヘッドを撫で、カラーグラス越しに苦笑いを溢して見せた。
「ああ・・・・・・たいしたことはない。棚に置いてあった小物入れを取ろうとして、ひっくり返してしまったのだ」
「それは災難でした。お大事に」
「うむ」
 そんなやり取りが聞こえるはずもない高いマンションの窓から、黒いくせ毛のハウスキーパーが艶やかな唇を舐めながら、走り去っていく高級車を見下していた。


「っていう復讐方法も、考えたことはあるんだけどね。改心さえすませれば、後はどうとでも弄れるよ。あの親子はああ見えてマゾっ気ありそうだったから、俺でも堕とせるかなぁとは思ってた。ただ、俺はどうしても祐介が好きでこの未来を選んだし、実際には何かとまわりの問題が多くてさ」
 俺もED治るかわかんなかったし、と隣に座ってニコニコと無邪気な笑顔で話す滝浪昂に、喜多川祐介は白い額を押さえて嘆息した。恋人同士の睦言にしては、生臭すぎる話題だ。ただ、昂が生み出した無数に枝分かれして消えていった世界について、祐介のほうが持ち出した話のきっかけだったので、文句は言えない。
「・・・・・・実行されなくてよかった。いくらなんでも明智が不憫だ」
 心を許した相手には慈母神並みの優しさを溢れるほど注ぐくせに、大切だと思っていない人物に対する性格の悪さ、というより、いっそ残忍といっていい冷酷さは薄々気が付いていた。しかし、ここまで悪趣味なことを考えられる人間と付き合っていると思うと、少々物申したくなってくる。その現象を、世間ではドン引きというのだが。
「アハハハッ、そんな顔しないで。そんな酷いこと、実際にやるわけないだろ?」
「そう思いたいところだが、昂は相手を生かすためなら、簡単に自分を犠牲にするからな」
 祐介が知っている昂ならば、たとえどんなに歪んだ形であろうと、生きたいと願う者には道を示すだろう。そこに自分の役目が必要ならば、自分の感情も時間も自由すらも、簡単に差し出してしまえるのだ。それは確かに優しさの一部なのかもしれないが、受け止めきれない相手にはいっそ殺してくれと言わせる残酷で重すぎる優しさだ。
 彼もそれをわかっていたのだろう。その優しさを妬みはしたが、彼だけは昂の手を払い、惨めな気持ちにさせるな、その我儘な優しさで己を救えと突き放した。その覚悟ができる彼らを、祐介は少し羨ましく思う。自分はあの頃、手を差し伸べてくれる昂に縋ってばかりではなかっただろうか。
「俺には到底真似できん」
「買い被りだ。それに俺は、祐介以外に入れたいなんて思わないよ。誰にも見せたくないくらい、世界で一番好きなのは祐介だけだし、祐介になら裏切られてもいいくらい愛してる」
「それは・・・・・・嬉しい」
 ちゅっと触れた唇と、狂おしいほど語られる愛に嘘はないが、この男は時々、自分の命運すらチップにして世界のルーレットを回すことを、祐介はイヤというほど知っていた。
「はぁ・・・・・・。俺は時々、昂が本当に悪魔なんじゃないかと思うぞ」
「あれ、バレた?祐介の前では尻尾を隠していたつもりだったんだけどな」
 ニィッと吊り上がった血色の良い柔らかな唇が、冗談とも本気ともつかない哄笑を上げ、「確かめてみる?」などと尻を触らせては、純朴な恋人をあきれさせるのだった。