交わりの道 4


 さらさらと窓の外でしなだれる雨音にうっとりと耳をくすぐらせ、意識を微睡の淵からゆるやかに浮上させていく。
 真っ白なシーツにくるまった肢体は、触ればやわらかいが、少しひんやりもしている。
「なんだ?」
「ううん」
 丸い肩にかかる長く真っ直ぐな髪は、深く暗い紫色。切れ長で大きな目は、潤んだ黒のようだが、よく見れば血のように濃い赤だ。自分よりもずっと女のような体をしているのに、放たれる気配や口調は、妙に男っぽい。
「蝎姫ぃ〜」
「なんだ、甘えん坊」
 でっかくてやわらかい胸にぐりぐりと額をこすりつけながら抱きつくと、あまり肉付きの良くない華奢な体を抱き寄せられ、ショートカットの頭を撫でられた。
「ヒマ」
「そうだな。でも、恵夢は暇が好きだろ」
「うん」
 にっこりと笑ってやると、蝎姫はゆったりと唇を笑みの形にゆがめた。
 素っ裸でベッドに転がった二人の肌は、ヒトの温もりとは微妙に異なる。いつまでも一定で、どこかひんやりとしている。
「ヒマも過ぎれば飽きるな。誰か引っ掛けてこよう」
 思い立ったが吉日。恵夢はシーツを跳ね飛ばして起き上がり、体にぴったりとしていながら露出の高い、規定の服を身にまとう。
 蝎姫はシーツをかけなおしながら、奔放な恵夢の行動を、少しも止めようとしない。
「温かい相手が欲しくなったか」
「んふふ。狩場上がりの敏感さんとかたまんないよね」
「相手を潰さないようにな」
「わかってるよ〜」
 服のデザインのおかげで、小さな胸でもそれなりに見える。豊満な色気とは言えないが、引き締まった体が中性的な若さを感じさせ、手軽な遊び相手という雰囲気に引き込みやすそうだ。
 蝎姫はベッドサイドに放りっぱなしの荷物に手を伸ばし、中から黒い表紙の手帳をつまみあげ、ぱらぱらとめくった。自分も出かける用事があるか確認しているのだろう。
「そういえば、祭りの季節だな。この辺にはあまりいないんじゃないか?」
「あー、みんなお祭りの方行ってるかなぁ?でもそこまで行くのめんどーい」
 ヒールの高い靴を履き、最後に相棒である短剣を確認して、脚に巻いた革ベルトに差し込む。
「じゃ、僕は行くよ」
「雨の中を行くとはご苦労なことだ」
「あ・・・ま、いいっか。きっと水も滴るイイ獲物が見つかるよ!」
「私は雨が上がったら、祭りを見に行くとしよう」
「うんうん。よく休み、よく遊べだね」
 蝎姫はやはり用事がなかったらしい手帳を荷物に放り込み、恵夢は忘れ物がないか、自分のポーチの中身をよく確認した。
「たまには足休めも必要だ。特に、雨の日はな」
 蝎姫は自分の都合に合わせてぼやき、まだ春の雨粒を伝わせる窓を眺めながら、シーツにほんのわずか残った恵夢の温もりを肌にこすりつけるように、悠々と寝そべった。
 誰がどんな時を過ごすのか、そんなことは、二人には興味がない。ただ、自分の動くトキはわかる。だから、適当に歩けばいい。
「そう、時間は、たっぷりある」
「またね、蝎姫。おやすみ」
「うむ」
 あと五分といわず、この微睡の終わるまで。

Fin