交わりの道 3
それらをしばらく棒切れで突付いて、恵夢は確信した。
「うん、白骨死体」 見ればわかる。 地面に半ば埋もれつつ、そのあたりに散乱している、汚れた生白い骨には、衣服であっただろうぼろきれがこびりついている。 「やっと見つけたよ〜。まったく、死んでもかくれんぼが上手いんだね」 最後の消息から、はや数ヶ月。ようやく見つけたものの、もう少しで一年経ってしまうところだった。 呼び出していた人物の騎鳥であろう重みのある足音に振り向き、恵夢は驚きに目を輝かせた。 「待たせた」 「やぁ!昇格したんだね」 「そんなところだ」 ひらりと飛び降りた背の高い女騎士は、以前会った時とは少し違う意匠の鎧を身にまとっており、それが上位騎士のものであることは疑いもない。 蝎姫は手綱をつかんだまま、さくさくと下草を踏んで恵夢に近付くと、その足元に視線を落とした。 「どう?」 「たしかに。【魔術師】のものだ」 蝎姫のいう魔術師は、この世界のいわゆる魔法使いたちのことではない。<黒き竜>の眷属たる蝎姫や、【恋人】の恵夢と、ほぼ同等かそれ以上の力を有する存在。 「原初の錬金術師も、自分で定めた法則から逃れることは出来なかったわけね」 「まったくヤツらしい」 その潔さを蝎姫は感心するが、恵夢はいわゆる人間らしさのない【魔術師】が嫌いだったから、自然と評価も皮肉っぽくなる。 「まぁ、死んでくれてほっとしているよ。僕の友達を煩わせて・・・」 「そう怒るな。恵夢が彼と友人になったのは、ヤツが彼を弟子にした後だろう?」 「そーだけど?」 だからどうしたと、恵夢は胸をそらす。 「出会いの順番なんて意味がないよ。結果には必然しか影響しないんだ」 「偶然だってあるだろう?」 「偶然の必然って知らない?」 水掛け論になりそうで、蝎姫は長い髪を払ってその話題を切り上げた。 「とにかく、入れ物の死体がここにあることは確認できた。やつは次の世界へ行っただろう」 「最初の存在である故に、永遠に飢え、流離う・・・。考えてみれば、気の毒だねぇ」 「恵夢に同情されてもな・・・」 「なにさ。僕は満たされることも、幸せも、知っているよ?脆弱で矮小だからこそ、ツツマシサってものを知るんだよ」 えらそうに言う恵夢に慎ましさがあったかどうか、賢明なる蝎姫はコメントを控えた。それとはべつに、この先のことを恵夢に問う。 「何も変わらないよ。僕は僕の道をいく。今回はたまたま、【魔術師】とニアミスしたってだけ。蝎姫は?」 「俺もまだ、しばらくここにいる」 「よかった。一人だと心細いんだよね!」 「・・・誰が心細いって?」 蝎姫の小さな呟きは、なにやら見つけたらしく地面にかがみこんだ恵夢には聞こえなかったようだ。 「あはっ。形見、見ぃっけ!」 恵夢は小枝でがりがりと地面を掘り、奇跡的に原形をとどめていた黒縁メガネを取り上げた。 「サカキに届けてあげようかなぁ。きっと安心すると思うし!」 「やめておけ。【魔術師】と関わったなどとという惨事を忘れて、平和に暮らしているだろうに」 「えー。そうかなぁ」 ぶぅと口を尖らせる恵夢の感性は、一般人のものとはややずれている。それを指摘することなく、蝎姫は自分達の立場を促した。 「俺たちが過剰に関わって、あらたな災厄をもたらしてもいかん。それも捨てておけ」 「はーい」 自分で持っているつもりもないのか、恵夢はぽいっとメガネを放り投げた。そして、騎鳥に乗る蝎姫に並んで歩き出す。過ぎ去ったものには、もう関心がないのだ。 「どこ行こうかなぁ」 「たまには一緒に行くか?」 「まじで!?行く行く〜!」 途切れた道もあれば、始まる道もある。 並んで歩く二人は、いまだ終わりの見えぬ半ばの道でも、それを倦むような精神の持ち主たちではなかった。
Fin
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